VOL.1 不動産オークションとUp System

1. 値決めが難しいなら、
しなければよい

土地を売る。それなりに需要がある土地。売主は仲介者が、できるだけ高く売ることを望んでいる。
では仲介者はどうやって売ればよいか。

一番普通の売り方は、価格を付けて市場に出す。例えば5,000万円の価格を付けて市場に出す。
すぐ欲しい人が現れて、5,000万円で買ってくれる。めでたしめでたし。

そうだろうか? これ本当にめでたいだろうか? もし仲介者が価格を5,500万円と付けていれば、その人は5,500万円で買ってくれていたかもしれない。その人でなくても、少し待ったら、5,500万円で買う人が現れたかもしれない。値決めは難しい。

そこで一案。値決めは難しいから、やめてしまおう。売る側が値決めするのではなく、買う側に付けてもらおう。
ただし競争的に。具体的には競り上げ式オークションをする。5,000万円の値付けをするのではなく、5,000万円を競り上げのスタート価格にする。

2. 競り上げ競争の活用

大事なことなので言い直そう。ある土地を売りたい売主や仲介者が、もし5,000万円で売れると思うのなら、その金額で売るのではなく、その金額をスタート価格にして、競り上げ式オークションをすればよい。

つまり豊洲市場でのマグロの競り上げや、サザビーズでの絵画の競り上げと同じように、参加者たちに土地を買うための競り上げ競争をしてもらう。競争が盛り上がれば価格は5,000万円を大きく越すだろうし、5,000万円より低い価格で売ることはない。

ただし競り上げ式オークションをする前提として、商品にはそれなりの魅力がないといけない。価格競争が起こるためには、競り上げで「5,300万!」「5,400万!」のように競争してくれる人が、二人以上参加する必要がある。

3. 競り上げしない見極め

実は競り上げ競争をしない方が高く売れるケースもある。 もし一人だけ他者より圧倒的に高い金額、例えば「その土地に7,000万円まで払う」と公言してくれる人がいるケースだ。言い換えると、一人の圧倒的強者にライバルが現れず、競り上げ競争が成立しないケース。こんなときは、その人に7,000万円で直接売ればよい。

競り上げ式オークションは優れた売り方だが、いつもそれがベストなわけではない。どの売り方を選ぶかは、難しい問題なのだ。もちろんろくに考えず、適当に選ぶことはできる。でもそれだと売主が望む高値での売却はできない。

どの売却方式が高値になりやすいかは、オークション理論とデータ分析で判断できる。
それら学知を統合した判断の仕組みをUp System(アップシステム)という。

4. 学知の本格投入

(株)デューデリ&ディールは、前身のアイディーユー時代から、約20年にわたり日本の不動産オークションを牽引してきた。オークション実施には無数のノウハウが必要だが、同社はそうしたノウハウを長年蓄積してきた。2018年からは私が同社に参画し、経済工学に基づく仕組みの改善を行っている。

私自身はオークションを専攻する経済学者だ。21世紀に入ってから、経済学の社会実装は急速に進んだ。例えば現在、ほぼ全てのOECD加盟国では、携帯電話事業に不可欠な周波数免許を、政府が主催するオークションで販売している。その際のオークション設計には、オークションを専攻する経済学者が関わるのが通常だ。米国でこれを主導したスタンフォード大学のポール・ミルグロム教授は、2020年にノーベル経済学賞を受賞した。

オークションに関する学知には、ノーベル賞を取れるほどの広さと深さ、そして実用性がある。逆に言うと、学知をフル活用するオークションと、そうでないオークションには雲泥の差がある。その差は、土地を売る際の価格の差にも反映される。

Up Systemのオークション設計や、オークションを使うか否かの判断は、オークションの学知に依拠している。「入札者の数をどう決めるか」や「入札締め切り間際の応札合戦にどう対処するか」等の細かな問題にも、判断基準や対処策が組み込まれている。不動産の売却にも、科学が活躍する時代が訪れているのだ。

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VOL.2 競り上げ VS AI
坂井豊貴(さかい とよたか)

坂井豊貴(さかい とよたか)

(株) デューデリ&ディール・
チーフエコノミスト

慶應義塾大学経済学部教授、(株) デューデリ&ディール・チーフエコノミスト。
米国ロチェスター大学経済学博士課程修了(PhD)。
プルデンシャル生命保険・社外取締役Economics Design Inc.取締役を併任。
多くのWeb3企業でアドバイザーを務める。著書『多数決を疑う』(岩波書店)は
高校国語の教科書に所収。オークション設計、評価アルゴリズムの設計などを専攻。