今年度は、大阪市・尼崎市・神戸市などの住宅街の一角に位置する「連棟長屋の一角」を売却したいというご相談を、
複数件いただいた。
立地条件によっては、建物の再利用(店舗・事務所等)計画も考えられる。
再利用には経済原則に基づく投資効率や、町屋などの様に建物の保存を目的とする場合には有効だが、私が目にする限り
老朽化した建物の再利用は少数派であり、大半は建て替えを想定することが多い印象を持つ。
建て替え時に、連棟切り離し工事が必要な家屋を売却する際は、法的・技術的な注意点を事前に整理することが不可欠。
例えば、建築基準法上の扱い、切り離し後の構造・安全性、隣家との共有部分(壁・基礎・雨樋等)の権利関係を
できるだけ整理する必要があり、そこから想定される工事費用や工期、近隣トラブルのリスクが、整理すべき事項となる。
経験豊富な買い手は、「想定外の追加費用」「工事が実現できないリスク」「将来の再建築可否」を強く懸念する傾向があり、
これらの不確実性が大きいほど、買取金額は安全余地を見込んで大きく下がる傾向にある。
一方で、切り離し方法や費用、法的整理が事前に可視化されていれば、これらの懸念は軽減され、価格低下幅も抑えられる。
連棟物件の価値は、物理的条件と同様に、「リスク解消度合い」が占める価格構成比率も大きいと感じる。
今年度の入札結果を見ていると、買い手の評価がそれを表している。
更地のエンドユーザー相場を100と仮定した場合、連棟長屋の一角に対する買い手の提示価格は、概ね更地相場の30%〜75%
と、大きな差を見出していた。
リスクの生じる不動産は買い手の評価にバラツキが生じやすい。
評価にバラツキがある不動産であっても、複数の買い手に検証いただくことで、リスク懸念を織り込みつつも高評価の買い手
と巡り合う可能性がでてくる。
懸念情報の開示と競争原理を組み合わせることが、価格を引き上げる有効な手法になると考えられる。
(執筆者)デューデリ&ディール 辻 祐史