今回は不動産とは少し変わった趣向の話題をお届けいたします。
近年、世界が注目する「予測市場」をご存知でしょうか?
従来のアンケートや世論調査よりも高い精度を誇る予測市場について、慶応大学坂井教授が解説します。
* *
予測市場への関心の高まりが凄まじい。私の研究室は近年このテーマに集中して研究しているが、最近は毎日平均して1件以上の問い合わせを受ける。これから予測市場は大ブレイクする、あるいはすでにブレイクが始まっているテーマだと私は確信する。それは人間を部品とする予測マシンだ。ここで大まかに説明したい。
* *
あなたは未来を予測できますか? と聞かれて「できる」と答えられる人は、なかなかいないだろう。でも本当だろうか? 本当にあなたは未来を予測できないのか。例えばだ。赤信号を渡ると車にはねられる、商談中に奇声をあげたら失注する、妻に口答えするとやり返されるから黙る等々、我々は無数の予測をしながら日々を生き延びている。大変だが結構すごい。
人間はサバンナの野生動物の子孫である。どこに敵がいるか? 何をすると大怪我をするのか? 予測力が低い個体は生存できない。そうして進化の過程で人間は予測の力を獲得してきた。
とはいえ現代社会は複雑だ。一人一人の個人がもつ情報は限られているし、認知の特性も違う。だから人はよく間違える。楽観的に間違えたり、悲観的に間違えたりする。しかし人間の集団において、楽観的に間違える者と、悲観的に間違える者が近い数いて、それらの意見が互いに打ち消し合うならば、集団の見解は中立的なものとなるかもしれない。すなわち集団は、一人一人の人間より賢いかもしれない。集合知の基本的な考え方とは、およそこのようなものである。
集合知を集める新しい仕組みが予測市場(プレディクション・マーケット)だ。そこでは例えば「ホルムズ海峡の交通は26年5月末までに正常化するか?」という問いへの予測チケットが売買されている。この問いに「イエス」と思う者はそのチケットを買い、「ノー」と思う者は売る。そしてチケットを1枚もつ者は、イエスの事態が実現すると1ドルを得て、ノーの事態だと何も得られない。
このチケットは市場で自由に売買されているが、1枚のチケットは最高でも1ドルにしかならないし、最低でも0ドルになる。よって市場でのチケット価格pは常に0と1の間の数字だ。
ここで価格は、問いがイエスになる確率と解釈される。例えば価格がp=0.8ドルだと、イエスとなる確率が80%で、ノーとなる確率が20%だと解釈される。p=0.8ドルは高い価格で、多くの人がこのチケットを購入した、つまり多くの人が「答えはイエス」と予想したということだ。なお、本稿の執筆時点で、「ホルムズ海峡の交通は26年5月末までに正常化するか?」はp=0.05ドル、つまりイエスの正常化する確率は5%という予測になる。
世論調査との違いは、参加者が真剣に身銭を賭けることや、問いに詳しい人ほど多額を賭けることだ。この点が予測市場は世論調査と大きく異なる。世論調査だと、人は真剣に回答するとは限らないし、詳しくない人も回答するからだ。予測市場のパフォーマンスは世論調査よりかなり高いことが知られている。それは「人間を部品とする予測マシン」なのだ。
ここで注意が必要だが、日本では予測市場は賭博や金融の法律に触れるものと思われる。とくにオンライン予測市場でチケットの売買に参加すると、オンライン賭博に該当するおそれが強く、絶対にやるべきではない。
予測市場への突っ込みどころは多々ある。例えばトランプ大統領は「ホルムズ海峡の交通を26年5月末までに正常化させない」ことができる。つまり結果を大きく変えられる人が、売買の参加者にいると、予測市場の存在そのものが、問いの結果を変えてしまうかもしれない。とはいえ問いに詳しい人、いわばある種のインサイダーが売買に参加すると、予測の精度は高まる。
これから日本で、警察庁や金融庁を含む多くの関係省庁を巻き込んで、予測市場の規制が議論されるのは確実だ。予測は凄まじい経済価値をもつから、予測市場を自由に使いこなせる国は、必ず有利になる。私としては、どうにかこの発明が合法的に使いやすくなるよう、関係各所と協力したいと思っている。いずれまたこのメルマガで予測市場の続編を書きたい。
(執筆者)慶應義塾大学教授、デューデリ&ディール・チーフエコノミスト 坂井豊貴