今回は生産緑地の買取申請を行政に二度受理して頂いたある農家の事例をご紹介します。
弊社でまず農地を含む所有不動産全ての売却の可否の検討と概算価格査定を行い、来るべき二次相続時に
残しておきたい土地は売却候補から外し、残りの土地の中から売却検討を開始しました。
売却の実現性と売却金額の兼ね合いから、生産性が低く接道要件を満たす市街化区域内の農地(生産緑地)
を選別する場合が一般的に多く、今回のケースでは一次相続時に主たる従事者の変更届がされておらず、
農業委員会の主たる従事者名簿は先代の名義のままで変更手続きが漏れていた農地と雑木林の混在した土地
(登記地目は過去の名残で「池沼」となっていた。)が売却候補となりました。
将来の三次相続を見据え、主たる従事者の変更は避けつつ、一次相続時の生産緑地制限解除を再申請でき
ればこの物件を第一優先で売却し、できなければ他の所有地の売却を追加検討することとしました。
生産緑地制度上には、明確な記載はないものの、主たる従事者の死亡から概ね1年以内に買取申請を申出る
ことを暗黙の了解としている市町村が多いように見受けられます。
生産緑地は農業継続が大前提であり、固定資産税の税額軽減を受けていることから、これ以上の歳月が経つ
と主たる従事者死亡後は他の者で耕作を継続しており、その耕作者が主たる従事者と推定されるようです。
今回の該当市の一次回答はこれに沿った内容で「先代の死亡時にいくらかの生産緑地を制限解除している
形跡が見受けられた。今回は先代の死亡による買取申請にあたるものとは考えられないと理解しうる。」と
いうものでした。しかし所有者を交えて当該市と協議を重ねた結果として、生産緑地の買取申請(制限解除)
をする事が出来ました。理由は対象地が「池沼」であったことにあります。「池沼」は農地に該当しない地目
であり本来、農業委員会の管轄外であったため、今回のケースでは主たる従事者証明の発行を要しないとの
行政判断が下り、現所有者の故障による買取申請が受領される整理となりました。
農地法は農林水産省、生産緑地法は国交省の管轄であるため、このような抜け道的な個別対応が通ったと
思われますが、この見解に行きつくまでには該当市内での論点整理が必要であったと思われ、担当頂いた
市職員の方の尽力に助けられました。
今回は生産緑地の制限解除後、買手による開発許可申請の取得、農地法5条受理を経て所有権移転となりま
したが、売却準備から決済まで1年かかるケースは珍しくありません。隣接地の開発同意、境界確定、行政の
許認可、近隣説明を要する案件等で2~3年を要する生産緑地もあるので事前の準備が重要となります。