2024.07.28 専門家コラム

第73回 【家族信託について②】

前回コラムで予告させて頂きましたが、私の経歴を語ることで「信託との接点」までを綴ります

山一證券から
「信託についてモノ申す!」と息巻いている割には信託とは全く縁のない経歴からのスタートです。
大学卒業後、山一証券から経歴はスタートします。証券営業で8年。そして1997年あの有名な野沢社長の自主廃業会見を経て、翌年2月に山一證券退社(清武英利氏著『空あかり 山一証券百人の言葉(講談社)』で百人の内の一人として、僅か4ページですが自主廃業発表前日からその後までの私を描いて頂きました。なぜか小説風です。)。この証券の8年間がなければ受益権分離型(複層化)信託の構築に繋がっていません。詳細は割愛しますが、受益権分離型(複層化)信託は証券知識からインスパイアされた部分が大きいという事です。

相続コンサルに没頭!
その後、外資系保険会社に移籍。外資系保険会社で相続理論を叩き込まれ、クライアントに相続対策を絡めた保険コンサルを行います。その過程で相続コンサルの面白さに気付きます。
そんな折、M証券が富裕層対応のプライベートバンキング部を新しく立ち上げるので、と先輩から声が掛かります。富裕層に対して包括的な相続コンサルを行いたいとの思いからM証券に移籍。その部署では全国支店の富裕層顧客に相続コンサルで情報提供し支店支援をするといった斬新な部署でした。「相続」は今でこそ各金融機関が力を入れていますが、1999年当時、資産税に特化する税理士ですら珍しい時代です、特に証券会社では稀有な存在でした。にもかかわらず証券会社で相続コンサルがうまく行くだろうとなぜ感じたか?それは所得税も相続税も税率の高い富裕層ほど、リスクと時間が伴う運用を考えるのであれば、運用より先に納税額を減らす努力をした方がはるかに効率的だということに気付いたからです。リスクを取って利回りを追求するなら、ノーリスクで節税し別次元から利回り追求した方が確実だという発想です。顧客からも証券会社がなぜ相続コンサルなのか?という物珍しさも相まって多く相談を受けます。実務については資産税に特化した税理士法人でエースとして高名だったT先生と運よくご縁を頂き実務経験を積んでいきます。T先生と相続実務をご一緒できたのは非常に大きく、T先生の存在なしでは受益権分離型(複層化)信託には辿り着けなかったでしょう。

相続コンサルの追求が「信託」へ派生
そうした相続バカともいえる相続コンサル一辺倒の中、2007年秋、外資系S信託銀行のIさんから声を掛けて頂きます。
当初、M証券での相続コンサルが楽しくて転職は全く頭にありません。1時間だけの面談というお誘いを承諾しますが、これが大きな転機のきっかけになります。面談で当り障りのない話で終わりエレベーターホールに送って頂く際、Iさんの何気ない言葉が琴線に触れます。
「相続コンサルであれば信託銀行でやった方が絶対面白そうだけどな~」
相続バカの導火線に火が付きます。その日から信託の研究に没入。当時、書店に並んでいた信託関連の本は全て読んだはずです。
信託を活用することで相続コンサルが飛躍的に広がることを認識します。そしてある本で紹介されていた信託スキームに目が釘付けになります。まさしく収益と元本を分離させる信託です(受益権分離型信託)。根拠となる通達があることを知ります。まず、通達をコピーして真っ先にT先生に相談します。T先生はスキームを存じており、
「小林さん、すごいレアな通達見てますね~」
「でも信託銀行がサービスとして扱うかどうかです」とご意見を頂きます。
早速S信託銀行Iさんにアポを取り「このスキームは組成可能か?」質問します。
Iさんは自信満々に
「うちは外資系だからできますよ!」。
信託銀行に移籍する決意をした瞬間でした。

信託銀行へ移籍
S信託銀行に移籍してから狼狽の連続です。信託について本を読み漁った結果、理論的に完璧だ!と思っていましたが、実際に実務をやる際に稟議書すら書けない、アシスタントの言っていることが理解不能という状態です。ペーパードライバーが道路に出た時に右往左往してしまうのと同じです。信託の机上理論と実務とのギャップの大きさを目の当たりにします。
そして、私にとって予想外のことが起こります。緊急事態発生!アラートが鳴り響きます!
(次回につづく)

 

 

【プロフィール】

小林 智 氏

(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家

1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業

1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。

その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。

1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。

信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。