家族信託に潜む時限爆弾
「家族信託について相談に乗って頂けますか?」税理士さんから電話が入ります。
「私ですか?」
こう反応してしまいます。家族信託は私の主力サービスではないからです。
「小林さんは10年前から家族信託がヤバいってセミナーで話してましたよね?家族信託で揉めているご家族からの相談依頼なんです。お願いします!」
このような相談依頼がコロナ前から増えています。
とにかくお電話を頂きます。
案の定、相談主は受託者のご兄妹(受託者長男の妹)です。
話を分かりやすくするため、家族信託の登場人物を統一します。
委託者(預ける人) :父親
受託者(預かる人) :長男
受益者(利益をもらう人):父親
他に長女がいますが長女は家族信託の当事者ではありません。
ここでは長女だけとしますが(実際に相談が多いのはなぜか長女さんです)、受託者長男以外の兄弟姉妹が多いほど時限爆弾は解除不能で複雑になります。
受託者の兄弟姉妹が時限爆弾化してしまうということです。
長女たちからみた家族信託
長女たちからの相談を列挙します。
長女A「家族信託をやったことを知らなかった。母から聞いて初めて知った」
長女B「2、3年前から父の財産を兄(受託者)が自分の名義に変えて勝手に動かしている」
長女C「家族信託をする際に説明は聞いた。賃料収入(信託財産)が父に一部送金されていない。兄(受託者)に確認するも使途不明がある。こんなこと許されますか?」
長女D「家族信託設定後、兄(受託者)家族の生活が派手になった(国産車からベンツへ)。父のお金を兄が流用しているのは間違いないんです」
長女E「兄(受託者)が駐車場にマンション建設。父が認知症になる前、私(長女)が駐車場を相続することになっていたのに兄から私に何も相談はありませんでした。」
長女F「父が認知症になると動かせなくなる!と信託を了承した。兄(受託者)が土地(信託財産)を売却、タワーマンションに組み替えた。当初聞いた目的と全然違う!」
長女G「信託財産の入れ替え時に顧問税理士同席のもと兄から説明は受けました。相続税節税のためとの説明です。父が認知症になった途端あれこれやり過ぎて不安です。」
以上が実際の相談の一部です。
長女たちの頭の中は疑心暗鬼のオンパレードです!
つまり、父親の認知症対策として採用した家族信託が長女たちには以上のように映っているということです。
露わになる時限爆弾!
繰り返しになりますが長女は家族信託の当事者ではありません。
ですが、父親の相続が発生すると長女は相続財産に絡みます、法定相続人として。
『家族信託は、長女が相続するであろう財産も含んだ父親の財産を、長男(受託者)が、相続発生前から管理する』ということです。
この事実が相続人の関係を複雑にします。
父親の相続後、長女の悶々とした感情が大爆発します。
カウントダウンしていた時限爆弾が起爆する瞬間です。
私への相談事案はすべて父親の相続発生前です。
相談事案はほぼリカバリー(修復)不能です。
長女の不信感を元に戻すことはできません。
カウントダウンを止めることはできず、父親の相続と同時に爆発します。
家族信託の存在自体を長女が相続後に初めて知るような状況ではより複雑になるでしょう。
どちらにしても父親の財産を長男が管理するというストレス、財産の毀損や流用の疑惑等から相続が「争族」に、泥沼化することは必須です。
家族信託に絡んだトラブルが続出しているのはこういう背景にあります。
次回はなぜ長女(受託者以外の相続人)が時限爆弾化してしまうか深掘りします。
【プロフィール】
小林 智 氏
(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家
1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業
1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。
その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。
信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。