本当にあった怖い話 その2
前回からの続きです。
その後、コンサルチームと音信不通になったため、渦中のファミリーのその後についてはわかりません。
ただ、コロナショック時に狼狽売りした株は無情にも上がり続けます。
家族信託の真相
この家族信託の目的は以下のように推察しています。
・資産組み換えを目論む「業者」(コンサルチームを敢えてそう呼びます!)からすると、母親よりも子供(長男)の方が誘導しやすい。
・保有株式が一極集中している点から亡き父親が勤務していた会社の株式だったのでしょう。こういうケースでは、母親は株価の変動に関係なく、「主人が長年働いていた会社なので下がっても持っています」というものです(元証券マンの経験則)。
・一方、子供はどうでしょう?相続税を払うのは子供自身。相続税の節税を煽ることで財産組み替えへのハードルは確実に下がります。
つまり、財産名義を母親から長男に移転することが目的の、「業者」都合の家族信託と言えるでしょう。
それは以下の売買が何よりの証拠です。
・信託した数か月後に株式全株を一括売却
・株式売却資金でマンションを即購入
その後の株価
それにしても気の毒なのは長女です。最大の被害者は長女かもしれません。
株式がそのままなら将来相続する財産が楽しみだったはずです。
売却した銘柄の株価を時系列で記載します。
銘柄は半導体関連の東京エレクトロン(証券コード8035、以下T社とします)。
超優良株です!
T社は2023年4月に1:3の株式分割をしているため株式分割後の株価、株数で記載します。
【家族信託設定時(2019年10月)】
T社株価7,200円×16,500株
=118,800,000円
↓
【コロナショックの売却時(2020年3月)】
T社株価6,000円×16,500株
= 99,000,000円(売却!)
↓
【東京アプレイザル様セミナーで事例紹介時(2021年9月24日)】
T社株価18,200円×16,500株
=300,300,000円
↓
【T社株価ピーク時(2024年4月4日)】
T社株価40,860円×16,500株
=674,190,000円
↓
【現在(2025年2月19日終値)】
T社株価26,015円×16,500株
=429,247,500円
現在の株式評価は約4.3億円!!
そこに毎年の株式配当が約800万円以上です(20%源泉分離課税)。
結果論でしかありませんが相続税対策のためマンションに組み替えず、母親がそうしてき
たようにT社株式を保有して放置しておけばよかったのです。
この案件からの教訓
この案件は財産運用の難しさを教えてくれます。
・暴落時に狼狽してなぜ超優良株式全株を一気に売却したのか?
・何度かに分けて売却することを検討しなかったのか?
・超優良株式を全株売却するくらい経済先行きを悲観するならマンションも同じだと考え
なかったのか?等
以上からマーケットの変動に慣れていないコンサルチームの経験不足は否めません。
長男の傍らに別のアドバイザーがいたら・・・後の祭りです。
そして、もう一つ財産管理の難しさです。
財産管理の主体者により、考え方や判断が変わり、そして資産構成も変わります。
その結果、資産規模まで変わってしまうところが財産管理の難しいところでしょう。
T社株式を静かに保有していただけなのに、家族信託という財産管理を選択したために財産名義が変わりました、つまり売買する権限が母親から長男(受託者)に変えてしまったがために、数年で天と地ほど違う結果になりました。
財産管理の難しさを如実に物語っているのではないでしょうか?
本当に恐ろしい話です。
最後に財産管理について非常に真摯に検討した書籍をご紹介します。
『人生は投資である』 福井尚和著 ダイヤモンド社
かなり深みのある良書です。是非、ご一読下さい!
【プロフィール】
小林 智 氏
(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家
1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業
1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。
その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。
信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。