本当にあった怖い話 その1
前回と真逆で信託に絡んだ怖い話をさせて頂きます。
相談者は私とは縁もゆかりもないコンサルチーム(士業の方を中心としたチーム)です。
相談者は私の前に突然現れ、聞きたいことだけ確認すると突然いなくなりました。笑
信託の怖さを物語る実例でしたので2021年9月に東京アプレイザル様の信託セミナーで題材にさせて頂きました。
信託の概要
委託者兼受益者 : 母親(判断能力が怪しくなってきた)
受託者 : 長男
信託財産 : 株式約1億円(某上場株式1銘柄)
家族には他に長女がいます。
家族信託は2019年後半に締結。
想定外の出来事
信託を締結した翌年2020年にコロナが蔓延します。
2020年2月から株式相場が世界で大暴落します。コロナショックです。
その際、家族信託を提案したコンサルチームからの働きかけで受託者長男が信託財産の某上場株をクラッシュした3月にすべて売却します。
売却から数か月経った7月頃、母親と長女の間で株式配当の話になります。
長女は家族信託のことは知りません(長男は母親に株式を売却することを伝えたとのことですが正確にはわかりません)。
母親が長男に株式配当を信託口座から自分の口座に送金するように依頼します。
保有していた株式の決算は3月末です。が、それまでに売却しているため配当は受取れません。
当然「何故全部売ったんだ!」となったのでしょう。
その時点で既に株式売却資金相当の区分所有マンションを買っていました。
勿論コンサルチームからの提案です。
コンサルチームからすると株式からマンションへの資産組み換えによる相続税対策の為、
株式は売却する予定だったのでしょうが、まさかのコロナショックによる歴史的な株式相場大暴落で訳もわからず大急ぎで株式を売却することになったのが全くの想定外だったのでしょう。
ところが、数か月で株式相場が反転急騰してしまったことも話を複雑にしてしまいます。
売却が発覚した時は売却株価より大きく上昇し、その株価が母親と長女の怒りにさらに油を注ぎます
家族間で大炎上です。
長男から泣き着かれたコンサルチームは家族の事よりも、自分たちに怒りの矛先が向かないか?火の粉が降りかからないか?等、不安になります。
証券事故や信託に絡んで問題になることを懸念したようです(金融庁への相談等)。
そして、自分たちが把握していない論点が存在しないかを確認するため証券会社出身かつ信託銀行出身でもある私が相談者として指名されます。
論点
概要を聞いた私は次のように回答しました。
・名義人の長男(信託受託者)の判断で売却しているため証券事故にはなり得ないのでは?
・信託契約書に受託者の裁量で売却できるようになっていれば問題にならないのでは?
それを聞いてコンサルチームは安心したようでしたが、私から以下の質問をしました。
・家族信託を受ける証券会社が限られている中、信託法に則りスキーム構築されているか?
・信託契約書の内容は?
以上を確認しないと正確に判断できないので共有頂きたい、と依頼しました。
ですが、その後コンサルチームからの連絡が途絶えます。そして未だ音信不通です。笑
(次回に続きます)
【プロフィール】
小林 智 氏
(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家
1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業
1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。
その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。
信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。