2024.12.24 専門家コラム

第86回 【家族信託について⑧】

今回は信託に絡んだ心が和む話をさせて頂きます。
最後までお付き合いください。

 

未上場会社の代表取締役社長をされている長女からの相談です。

父親(会長)が再婚するとのことで、父親が保有する自社株(未上場株)について、が論点でした。

長女(社長)の考えは

・再婚を反対しているのではない
・父親の相続では財産はいらない
・但し、自社株は自分(社長)に帰属するようにして欲しい

とのこと。

 

会長は入籍前に「自社株は長女(社長)に相続させる」旨の遺言を作成するとのこと。
ですが、社長の懸念は、予め遺言を作成しても、「全財産を妻(後妻)に」という日付の新しい遺言が後日出てくれば水の泡になることです。
可能性がゼロという訳ではないためあれこれ検討した結果、「信託で対策する」という結論になったようです。

遺言のデメリットと遺言機能を盛り込んだ信託(遺言代用信託)との違いを確認します。

まず、遺言は
・日付が新しいものが採用される

・例えば、手間暇かけて公正証書遺言を作成しても、日付が新しい自筆証書遺言が作成されると日付の新しい遺言が採用される

・ある意味、紙の濫発になる可能性も

 

一方、遺言代用信託は
・財産自体を受託者に所有権移転した上で帰属先が決められるので紙の濫発にはならない

・既に信託財産となっている財産を対象とする遺言を作成するには信託契約を解除する必要がある

 

今回の信託契約では、信託財産は自社株、委託者兼受益者を会長、受託者を社長、で信託を設定、

会長が亡くなった際に信託は終了し、自社株の帰属先を社長とします。

 

会長の相続発生後に「全財産を妻〇〇(後妻)に相続させる」旨の遺言が出てきた場合、自社株はどうなるでしょうか?
自社株は信託する際に会長名義から受託者名義(社長)に移転します。
当然、株主名簿には社長の名前が記載されます(信託財産として)。

 

ということは、「全財産を妻〇〇(後妻)に」という遺言が出てきたとしても、自社株は後妻に相続される財産に含まれないという事です。
紙の濫発が防げるということに他なりません。

 

ということで、入籍を早くしたいという会長の要望もあり、時間的にピリピリした中で信託コンサルを行い無事に組成!
信託契約締結時には会長からは「このような斬新な方法をご指導いただき本当にありがとうございました!」と何度もお礼を言われました。

 

それから数年後・・・
社長との定期的なやり取りの中、思わぬ言葉が。
「小林先生、信託契約を解除するかもしれません。実は・・」

 

私からするとピリピリした中、せっかく組成したのに何故?という感覚です。
理由は後妻さんとの関係でした。
社長自身も社長のご主人も仲良くなり、社長のお子様も大変懐いているとのこと。
そして社長から
「父が亡くなった後は私が(後妻さんの)面倒を見ようと思っています」

社長との電話を切った後、何故か温かい気持ちになりました。

 

 

 

 

 

 

【プロフィール】

小林 智 氏

(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家

1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業

1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。

その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。

1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。

信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。