受益権分離型信託(複層化信託)について
このコラムを読まれている複数の税理士さんから「小林先生のスキームについての記事は?」とお声掛け頂きました。
最終回となる今回、受益権分離型信託(複層化信託)について触れたいと思います。
受益権分離型信託(複層化信託)
「見よう見まね」でこのスキームに取り組まれた税理士法人で数年前に否認事例が出ました。
小手先でできるスキームであれば私が信託銀行で構築するのに1年以上もかからなかったでしょう(コラム第2回、3回をお読みください)。
無数の論点整理に時間がかかるはずですが、「前例もあり大丈夫だろう」という感覚なのでしょう。
ですが、このスキームに取り組まれた士業やクライアントから確認・精査の依頼があり、これまで10件程の信託契約書を拝見させて頂きました。
が、実に9件が地雷を踏んでしまっていました。
すべてレッドカードで一発退場の間違いばかりです。
ということで、論点は多々ありますが、今回は前段階の議論として受益権分離型信託(複層化信託)に不適格な財産について解説させて頂きます。
仕組まれた金融商品は?
銀行や証券会社で特別に作り込まれた商品(仕組まれた債券やファンド等)を信託財産とするのはNGです。
S信託銀行在籍時に同僚から「仕組んだファンドでスキーム構築できないか?」という相談が何度かありましたが、感覚的に気持ち悪さがあり「それはNGだ!」と警鐘を鳴らしたことがあります。
この辺りはスキームに取り組むセンスの差だと当時は感じていました。
ですが、今は「その感覚が正解だった」と思っています。
なぜなら課税庁とのやり取りで、異口同音に「この信託財産の金融商品は(富裕層向けに)組成されたものですか?」という質問を何度か受けました。
1度なら気になりません。
再度、聞かれて「ん?またそこ・・・?」となり。
3度目の問い合わせ時に「あっ!NGなんだ!」と認識しました。
長年、資産税に特化してきた有名税理士先生の見解では、「『スキームに乗せる為に別途組成した』と課税庁に解釈されると租税回避に近い行為と認識されるのでしょうね」とのこと。
「純粋に投資のため?」なのか「節税が目的?」なのかという事でしょう。
その考えを示唆する動きとして、2022年7月14日、金融庁と国税庁が連携強化を発表しています。アドレスを貼り付けておきます。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/hoken/20220714-2/20220714-2.html
これは節税を絡めた保険商品販売を封じるのが目的です。
情報提供窓口の案内まであります。「垂れ込み大歓迎!」という事でしょうか?
金融庁とパイプのある弁護士先生の話では、保険商品だけでなく他の金融商品も同様の考えのようです。
つまり、「節税を謳って金融商品を売ることはまかりならん!」という事でしょう。
建物(収益物件)は?
建物を信託財産とするのもNGです。
2008年、スキームを様々な角度から検証していた際に減価償却の絡みで建物がこのスキームには適さないと認識します。
従って、2009年から税理士法人向け勉強会やセミナー等で「建物はNG!」とアナウンスしてきました。
実際、受益権分離型信託(複層化信託)で建物を信託財産とするコンサルは全てお断りしました。
ただ、数年前、「建物を信託財産としたい」とオファーを受けます。
熱心にオファー頂いたので時間をかけて再検討しました。
その結果、減価償却以外でさらにNGになる論点が2つあることに気付きます。
紙面の関係上、詳細は省きますが、2点とも処理を誤れば多大な課税関係が生じます。
たぶんこの2つの論点に誰も気付いていません。
ということで、建物はこの信託スキームには馴染まないという結論です。
まとめ
受益権分離型信託(複層化信託)はそもそも
「何がリスクかさえ気付かない」
「件数をこなさなければ見えてこない」
「維持管理をミスしても課税されてしまう」信託です。
私が言うのも何ですが不用意に取り組んではいけないスキームです。
【プロフィール】
小林 智 氏
(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家
1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業
1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。
その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。
信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。