なぜ家族信託が爆発的に脚光を浴びたのか?
今回から家族信託について具体的なお話しをさせて頂きます。
「認知症対策といえば家族信託」と言われるほど何故あちこちで取り組まれたのか?
その一番の理由は使い勝手が良かったからに他なりません(他にもありますが後日お話しさせて頂きます)。
「それではそもそも認知症になるとどういう弊害が起こるのか?」
そして「なぜ家族信託なのか?」を確認していきます。
典型例をもとにQ&A形式で説明します。
登場人物は、
父親 :80歳。地主。最近、判断能力が怪しくなってきた
長男 :55歳。父親・母親と同居。
土地X:駅前の駐車場。名義人は父親。
※長男は数年前から相続対策として土地Xにマンションの建設を提案されている。
Q1、認知症になると何が問題なのか?
父親の判断能力がなくなると法律行為(契約等)ができなくなります。マンションを建設するにしても父親の判断能力がなければ業者と契約ができません。
成年後見制度はほぼ使えません(詳細は割愛します)。
Q2、じゃあどうする?
父親が認知症になる前に土地Xの名義を長男に移しておけば、父親が認知症になったとしても、土地Xの名義人となった長男が法律行為をすることができます。つまり長男の判断でマンション建設の契約ができます。
Q3、長男を名義人にする方策は?
まず「譲渡」が考えられます。
土地Xを長男に売却します。但し、父親に譲渡税がかかります。
もう一つは長男への「贈与」です。
土地Xを長男に贈与します。但し、長男に贈与税がかかります。
つまり、名義を変えると新たな課税関係が発生してしまいます。
Q4、そこで家族信託の登場。信託契約の際、家族がどのような立ち位置になるのか?
信託する財産 :土地X
委託者(預ける人) :父親
受託者(預かる人) :長男
受益者(利益をもらう人):父親
これが家族信託の典型的なパターンになります。
信託のポイントは、父親(委託者)が土地Xを長男(受託者)に信託すると、名義(所有権)が受託者の長男に移ることです。
つまり、信託契約後、土地Xは名義人となった長男の判断でマンションを建設することも、売却することもできるようになります。
Q5、信託では上記Q3の「譲渡」や「贈与」で発生する課税の問題は?
信託契約した際の課税関係については「受益者が誰になるか?」で決まります。
父親が土地Xを長男に信託して、受益者(利益をもらう人)を父親とすると経済的価値は移転したとみなされません。名義(所有権)は長男に移りますが土地Xからの利益は引き続き父親自身が享受するからです。
つまり、信託では受益者を父親とした場合、新たな課税関係は発生しません。
以上のように認知症になった際の問題は、土地Xを予め信託しておくことで回避することができる訳です。
家族信託のメリットをまとめます
・「譲渡」や「贈与」は新たな課税関係が発生してしまいます。
信託だと名義(所有権)を長男に移転することができ、新たな課税関係も発生しません。
・父親は信託契約締結後も受益者となり信託財産からの収益を引き続きもらえます。
・家族内で手軽に組成できます。
以上が、家族信託が脚光を浴びた理由です。認知症対策としては素晴らしいスキームです。
但し、思わぬ爆弾が潜んでいます。
親の相続が発生してから炸裂することになる爆弾です。
まさに時限爆弾です。
既にいたる所で爆発しています。カウントダウンに入った爆弾も続出しています
次回は家族信託に潜む時限爆弾についてご説明させて頂きます。
【プロフィール】
小林 智 氏
(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家
1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業
1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。
その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。
信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。