2024.10.23 コラム

第79回 【成年後見制度の上手な活用事例(共同選任)】

今回は、ある不動産取引の際に司法書士と協議して成年後見制度を上手に活用した事例をご紹介します。

(注)一部内容を変えています

・約1年前にある不動産の売却依頼をご夫婦から受けた。(名義人はご主人)

・ご夫婦としては対象不動産を必ず売却をする方向性を決めていた。(将来、奥様が単独で相続する遺言あり)

・半年後、骨折と病気を併発して入院が長期化し、体力と意思能力が著しく低下した。

・退院後、介護施設でご主人と再度面会した際(当初面談から約1年後)には、意思疎通が難しくなっていた。

・ご依頼後、弊社が売却活動を進めて買主候補が出ていたが、売買契約をこのまま進めるのが難しくなった。

 

このケースで、意思能力を欠く場合でも不動産売却を進めるため、法定後見制度の活用が考えられましたが、法定後見制度で一般的に挙げられる以下のデメリットの対応を考える必要がありました。

後見人の管理費用

法定後見人の報酬や、後見制度を利用するための手続き費用の発生が発生し、かつ長期化すること。

後見人の裁量について

法定後見人を裁判所が選任するため、誰が指名されるか家族には事前にわからず、本人やその家族の希望と後見人の判断が合わない場合にはトラブルが生じる可能性がある。

財産の利用や管理に制約が生じる

後見人が本人の財産を管理するため、財産の処分が制約され、家族の意思が反映できないことがある。

 

本件ではご夫婦が当初から決めた方向性を奥様が遂行するため、知り合いの司法書士さんと協議のうえ、その司法書士と奥様の共同選任とすることで裁判所の許可を得ることとしました。

 

①専門家士業と奥様の共同選任とすることで、士業による財産管理機能が働き、裁判所も第三者でなくても選任しやすくなるため、実際、申請代理人の司法書士と奥様が共同後見人に選任されました。

②介護施設への往来等、ご主人の身上介護は引き続き奥様が行うこととしました。

③不動産売却が主目的なので売却後、一定期間経過して奥様のみで身上監護と資金管理ができる状態になった段階で、共同選任の司法書士の役割を終えて辞任することを当初から予定した申請内容として裁判所の許可を得ることが出来ました。これにより後見費用を長期間、支払う必要がなくなります。

 

本件は不動産1件を売却した後は奥様が日常の身上介護の範囲でできることばかりなので、第三者の士業が選任されて、①~③で奥様と考えが相違して、管理費用だけ払って奥様の考えが重視されないようでは何も良いことがありません。また資産家でもないのに成年後見が一生続くようであれば、後見人への報酬負担が重くなることが懸念されましたが、「共同選任」「役割が負えたら辞任」ができるようにした申請内容を事前に裁判所と協議して進めることで、本件目的に沿った後見人の設定ができました。

その後、共同選任の後見人2名を売主代理人として署名、捺印をいただき、売買契約の締結ができました。