前月に続き、家族信託の活用事例をご紹介させていただきます。
今回の事例は、関係者の人間関係や思惑等、個別的な事情を含みますので家族信託の一般的な活用方法とは言えませんが、
信託をうまく活用した事例ではあると思います。
(事例)
・複数の不動産を持つ方の相続が発生。
・相続対象の不動産が底地、借家等、権利関係の複雑なものが過半を占めていた。
・相続人は5名。特に不動産実務に明るい方がおられず、実際いくらで売却できるのかが見通しにくいことから権利関係の
整理と公平な財産配分を全員で合意するために弁護士に委託した。
(今回の取組概要)
・不動産が相続財産の大半を占め、対象不動産が底地や借家であることから、弁護士が実質的に売却の全権委任を受ける形で
機動的な取り扱いのしやすい信託を手法として選択。
・受託者を弁護士個人とせず、万が一の弁護士死亡の場合も考慮して相続財産の換価、配当を行うことを目的として設立した
一般社団法人(理事は弁護士)とした。
・借地、借家が絡む不動産の売却のため、調停、訴訟等の手続が必要な場合は弁護士が対応。
・当社は受託者との間で管理委託契約を締結し、不動産売却完了までの間の管理会社としての機能と、借地人、借家人は売買
の相手先となる可能性もあることから売買仲介機能も業務内容に含めた。
(信託目録記載の「信託の目的」を一部抜粋)
「本信託は、受託者に信託財産を管理及び処分させることにより、委託者らが共有する不動産を円滑に処分し、その代価を
公平に分配することを目的とする。」
受託者の事務として「① 信託財産に属する不動産を管理(第三者に賃貸すること及び賃貸借契約の解除を含む)、変更、
処分(処分に要する境界の確認、測量等を含む)すること。」とあります。
当社は底地の地代や借家の賃料の査定を行うとともに、売却の手法、売却価格査定等を受託者に提案したうえで、順次売却
を進めて行くことになります。
家族信託というと不動産所有者が認知症になる前の対応策として活用されることが多いかと思いますが、信託は本来、「受
託者の専門的な運営管理に資産を委ね、実質的な権利者である受益者は配当だけを得る」ことや、「受益者はあえて自分自身
ではなく、ノウハウを持つ受託者に資産を託して受託者名で権利行使をする」といった運用委託機能を持っており、また本件
では共有者の1人に相続が発生した場合の受益権の承継者の指定(受益者連続信託の設定)までされていることから、信託の
機能をフルに活用していると言えます。