家族信託で長女の時限爆弾化を防ぐには
今回も家族信託を設定したファミリーは【信託委託者兼受益者:父親、信託受託者:長男、 家族は長男の他に長女がいる】とします
家族信託で長女が時限爆弾化するかしないか、何がポイントなのでしょう?
答えは、信託契約締結後の「財産管理」
これが全てです。
そもそも信託は受益者のための「財産管理」です。
何をいまさら?と思われるかもしれません。
ですが「財産管理」が出来ていない家族信託が多いのは事実です。
「財産管理」なので信託契約締結してからがスタートなのですが、「認知症対策=家族信託」と捉えて、「信託設定しました!これでゴール!」という感覚になっています。
信託法では「財産管理」として色々定められています。
中でも最低限これだけはやっていないと長女にも何も説明できないでしょう!
・信託財産状況報告書等の作成(信託法第37条)
・分別管理(信託法第34条)
ですが信託法をスルーして、何ら維持管理されていない家族信託も存在します。
原因は家族信託を提案する専門家にもあります。
認知症対策として家族信託を提案するものの、
「信託締結後の維持管理はファミリーで責任を持ってやって下さい」
というようなものです。
信託の素人が出来る訳がありません。
慣れるまでサポートが必要ですが、専門家のサポートも得られず放置されています。
なぜサポートされないか?は以下の通りです。
・サポート面までのコストを提示するとコスト面から家族信託が導入されない
・維持管理が煩わしいため家族信託が敬遠されてしまう
ですが、信託設定後のサポートを考えないのであれば家族信託を提案したらダメだろう感じます。
「財産管理としての信託」の体をなさない訳ですから。
維持管理さえ行われていれば、長女から「信託財産の現状や過去の信託配当について確認したい」と言われても、上記資料を共有すれば長女の不安心理は和らぐはずです。
それでも長女の不透明感はゼロにはできません。
長女への情報共有まで信託法では求められていませんが、資産構成の変更、資金の動きなどをガラス張りにしておくことが長女を時限爆弾化させないためには必要でしょう。
私の苦し紛れのアドバイスの結果、兄妹関係が改善された案件をご紹介します。
第5回コラムで記載したように、相談案件では長男(受託者)と長女の関係を修復不可能と感じる案件がほとんどでしたが、たったそれだけ?という方法で時限爆弾のカウントダウンがストップしました。
「長男(受託者)と信託財産の動きを機械的にLINE(ライン)で共有できませんか?」というアドバイスです。
会話する必要もありません。
父親へ信託配当(送金)する際やATM等から引出し父親のための費用に充当する際、その都度、請求書等を写し、お金の流れもLINE(ライン)で共有、既読になれば長女は承認した、という感じです。
長男も何か感じたのでしょう、応じてくれたようです。
それ以降、信託財産からお金の流れまでガラス張りになりました。
同時に長男が父親のことに尽力してくれている事もガラス張りになり、長女の感情も収まりました。
LINE(ライン)を使う事の是非はありますが背に腹は代えられません。
解決するのであれば活用できるものは活用すべきです。
お金の流れをガラス張りにしておく重要性は長女対策だけではありません。
課税庁に対しても有効です。
長男(受託者)が親のお金を流用していた場合など、相続発生後に税務調査が入った場合、通帳の突き合わせにより不透明な流れがあれば疑義が生じます。
その際、長男への贈与として判断されるのかどうか?等、税務調査の指摘事例も少ないことからどういう扱いになるのか明確ではありません。
ただ、信託財産周辺の動きがガラス張りになっていれば重箱の隅をつつくような議論を回避できるはずです。
認知症対策として家族信託を活用する際、「信託は財産管理」という大前提は認識しておくべきでしょう。
【プロフィール】
小林 智 氏
(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家
1967年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業
1990年山一證券入社。外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。
その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)、独立系の富嶽信託取締役(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
1998年からプライベートバンカーとして超富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。
信託銀行・信託会社における商事信託での実務経験を活かした民事信託コンサル実績多数、各方面(税理士、司法書士、弁護士)への信託実務指導も多数行う。